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2017

武田地球WEB

Line Dove Bird
Cutout Organic Textured Circle

Profile

詩人



B型さそり座。

文学部哲学科出身。


すきな食べ物はムーンケイキ。


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Myanmar

大阪のミャンマー


大阪のミャンマーはやたらに生真面目な青年で、

直立不動がよく似合う。

毎日夜の公園で詩を朗読しているから、

はたからみるとちょっとあれで、

しかも時々に勝手に感極まって泣いているという。


仕事がおわるとミャンマーは六キロの道のりを歩いて帰宅する。

ひたすらにまっすぐ歩きながら、

へとへとのミャンマーは詩を書いたりしている。

ミャンマーは定期券を買ったことがない。

ミャンマーには一ヶ月先の生活がわからない。

その日暮らしのちっぽけな存在が、ミャンマーそのものだ。


ミャンマーはひとり、橋を渡っている。

ミャンマーの住む都市のなかには、

淀川というとても大きな川が流れている。


ミャンマーは立ち止まってはならない。

橋の上はいつもごうごうと都市のつよい風が吹いていて、

いま、ミャンマーは欄干に背をもたれている。

すこしの力が作用したらどこか遠くへ翔べると信じているのか、

或いはなにも知らないのか、

空をぼんやりみたり川面をみつめたりしている。

水鳥が飛ぶ。

夜には色が変わる。

この川の両岸にしずかに佇んでいるテトラポットたちはみんな、

ミャンマーだ。


ミャンマーは日本人であるが、

いつからか誰かにミャンマーと呼ばれている。

祈りや叫びや魂に国籍はなく、

ミャンマーがなぜミャンマーなのかは誰一人知らなかった。

小さな器をめいっぱいに生きる名もない詩人に似つかわしい、

濁った大きな川がある街がミャンマーの街、大阪だ。

彼は大阪のミャンマーだ。

それですべてがまるく、収まっている。


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Litchi

ライチと花


窓の近くに立っていた、ときどきライチの名を呼んだ、

花がよく咲く家だった


ライチは空想上の犬だった、それなのによく懐いた

いつもわたしたちについてきて、

ダルメシアンと何かの雑種だった

模様がすこし変わっていた、脚が短くまるかった、

なぜだか一度も吠えなかった


花が咲かなくなったから、ライチはいなくなった

逃げてしまったのだろうか、

あるいは死んでしまったのだろうか


あれから何十年も経って、

机の引き出しの奥、もっとも大切なものをしまってある箱に、

わたしは一枚の絵を見つけた

誰かが書いたライチの絵、模様がすこし変わっている、

脚が短くまるいあの犬


ライチ、

井の頭恩賜公園を駆け抜け、ほそい路地の階段をあがると、

数え切れない花々が降る

わたしたちは今もあの街の中に暮らしている

遠くで犬がひとつ吠え、 わたしはたしかに永遠を見た


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第一詩集大阪のミャンマー

しろねこ社より好評発売中

待望の武田地球の詩集。彼女の詩は、孤独、切なさを剥ぎ取ったあとの優しさが僕たちの胸をうつ。

大阪のミャンマー、僕たちはこの詩を読むたびに、多分1日の安息を得る。生きていて良かったと思う。(しろねこ社より抜粋)