Gagarin
ガガリン団地に住む少年はいつも遠くをみている
雨の日も晴れの日も曇りの日もあり
遠くをみていると負ける気がしない
信じていた人に裏切られたことがある
手紙を全部捨てられたことがある
切符も破り捨てられた
それからなんだかわからなくなった
生きることはわすれなかったが毎晩夢の中で犬に追われた
ガガリン団地には階段がある
階段は低いところから高いところへと続く
少年はどこまでも昇って行ける気がした
けれどどうしても5階以上へは行かれなかった
手すりはペンキが剥げ落ちている
それでもこの街が一望できる
空にいちばん近いのに
どうしても5階以上へは行かれなかった
少年は階段に座る
黙ったまま日清のカップヌードルを食べる
その一瞬
太陽はガガリン団地を照らす
少年を照らし、カップヌードルを照らす
ガガリン団地
武田地球