Litchi
窓の近くに立っていた、ときどきライチの名を呼んだ、
花がよく咲く家だった
ライチは空想上の犬だった、それなのによく懐いた
いつもわたしたちについてきて、
ダルメシアンと何かの雑種だった
模様がすこし変わっていた、脚が短くまるかった、
なぜだか一度も吠えなかった
花が咲かなくなったから、ライチはいなくなった
逃げてしまったのだろうか、
あるいは死んでしまったのだろうか
あれから何十年も経って、
机の引き出しの奥、もっとも大切なものをしまってある箱に、
わたしは一枚の絵を見つけた
誰かが書いたライチの絵、模様がすこし変わっている、
脚が短くまるいあの犬
ライチ、
井の頭恩賜公園を駆け抜け、ほそい路地の階段をあがると、
数え切れない花々が降る
わたしたちは今もあの街の中に暮らしている
遠くで犬がひとつ吠え、 わたしはたしかに永遠を見た
ライチと花
武田地球