ötousan
あちら側とこちら側の間には
しずかなたわみ曲線がひいてある
生まれたひかりは
けして腐ったりしない
わたしの内側にひろい場所がある
死んだ後、おとうさんはひとりでそこに寝ている
善いも悪いもない
夏になると暑い
おとうさん、梨を一緒に食べましょう
からだの中で、蝉がミーンミンと鳴く
行けども行けども、果てしがない、おとうさん
この街にはおとうさんがいた
わたしは自転車のペダルを踏むたびに
「おとうさん、ごめんなさい。おとうさん、ありがとう。」と言う
そうしてこの街に
おとうさんを足したり引いたりしている
自転車を漕ぐ
街を走る
おとうさんと言う
あらゆる感情は「ötousan」の中にある
錆びたペダルの音が讃美歌に聞こえる
生まれたひかりが力になる
わたしの自転車が走っていく
おとうさん、これが夢の永久機関だ
あたらしい祈りだ
生きている時は他人だった
どうしても、おとうさんと言えなかった
もしも巡りが赦されるのならば
わたしはあなたに、おとうさんと言う
蝉がミーンミンと鳴く
ötousan
武田地球